巨大企業がビットコインを購入するよう促す取り組みの内情:株主提案戦略

ビットコイン普及の新たな戦場は、なんと企業の取締役会です。株主提案を巧みに活用することで、インフレによって価値を失っている大量の現金を保有するアメリカ最大級の企業に、ビットコインをその解決策として検討してもらおうという試みが進んでいます。この取り組みの中心人物は、Free Enterprise Projectの副ディレクターであるイーサン・ペック氏で、彼はマイクロソフトやアマゾンの取締役会に直接ビットコインの議論を持ち込んでいます。
株主提案の仕組み
株主提案を提出するプロセスは、一見手軽に思えますが、その実、複雑な要件が多くあります。提案を行うには、株主は次の3つの所有要件のうち1つを満たさなければなりません。
- 3年間で2,000ドル相当の株式を保有
- 2年間で15,000ドル相当
- 1年間で25,000ドル相当
しかし、技術的な要件は非常に厳格です。
- 提案は500単語以内でなければならない
- アポストロフィやダッシュといった些細な形式の問題でも、単語数としてカウントされる可能性がある
- 提出や会議のタイミング要件を厳密に守る必要がある
- わずかな技術的違反でも、提案が却下されるリスクがある
企業投票の現状
多くの人が知らないのは、企業における議決権がいかに集中しているかという点です。投票権の大半は以下によって支配されています。
- トップ5の資産運用会社
- 主要な議決権行使助言会社2社(ISSとGlass Lewis)
合計すると、これら7つの主体が約90%の投票を掌握しています。
つまり、過半数の賛成を得るためには、数多くの個人投資家を説得するというよりも、少数の機関投資家を味方につけることが重要になります。たとえばブラックロックはマイクロソフト株の約7%を保有していますが、投票権を行使していない株主の分まで含めると、投票権は12%に達します。
マイクロソフト提案の概要
ペック氏が最初に本格的に狙いを定めたのは、インフレによって価値が目減りしている多額のキャッシュを保有するマイクロソフトでした。この提案にはいくつか注目すべき点があります。
- ビットコインの購入を義務づけるのではなく、金庫資産としてのビットコインの評価を行うよう求めただけ
- マイケル・セイラー氏は、CEOのサティア・ナデラ氏との1時間の面会を条件に、この提案を取り下げることを申し出た
- マイクロソフトは面会の申し出を拒否したものの、この提案はメディアの注目を集め、業界の議論を巻き起こした
この提案はわずか0.5%の賛成しか得られませんでしたが、この数字だけでは全てを語れません。実際の投票結果は、大手資産運用会社の投資家向けスチュワードシップ部門の判断によるところが大きく、これらの部門は伝統的な考え方を持ち、暗号資産のイノベーションに対して慎重な傾向があります。
今後の戦略
この運動は、次のような重要な戦略的ポイントを踏まえながら進化を続けています。
- ターゲット選定: 以下の観点で企業が評価される
- キャッシュリザーブの規模
- ビットコイン採用の可能性
- 株主基盤の構成
- 既存の暗号資産保有状況
- 草の根的な拡大: 単一の株主提案に頼るのではなく、複数の株主が複数企業に同様の提案を同時に行う動きが進行中
- 教育的アプローチ: 投資家向けスチュワードシップ部門の多くはビットコインへの理解が乏しく、知識普及や意見交換の機会が生まれている
- 受託者責任に注目: 暗号資産の普及を推進するのではなく、株主価値を守るための議論としてフレーミングされている
今後の展望
このアプローチは、既存の企業ガバナンス構造を活用してビットコインを普及させる新しい手段として注目を集めています。いくつかの要因から、この戦略がさらに広がる可能性があります。
- 機関投資家の変化: ブラックロックのような大手資産運用会社は、ETFなどを通じてビットコインをますます取り入れている
- インフレ圧力: インフレが続く中で、現金以外の選択肢を検討する必要性が高まっている
- 前例の積み重ね: たとえ1社でも成功すれば、ドミノ効果を生む可能性がある
- 規制の明確化: 規制環境の改善が見込まれることで、取締役会がビットコインを受け入れやすくなる可能性がある
今後を見据えて
初めてのマイクロソフト提案は否決されたものの、将来の取り組みのための雛形を示し、企業ガバナンスを通じて行動する可能性を浮き彫りにしました。この戦略は特に、次の理由から注目に値します。
- 既存の法的枠組みを活用している
- 潤沢な資本を保有する企業がターゲットになっている
- 企業のビットコイン採用に関する社会的議論を喚起する
- 今後の提案への弾みをつける
企業が価値の減少する現金を抱え続ける現実に直面し、ビットコインが資産クラスとして成熟を続けるなか、こうした株主提案は機関投資家による導入を促すうえで、ますます重要なツールとなるかもしれません。カギとなるのは、最終的に投票権を握る投資家向けスチュワードシップチームをいかに味方につけるかであり、そのためには忍耐と情報共有、そして伝統的な金融システムとの粘り強い対話が欠かせません。